2005/03/24 (木)

エルバート・ルータンの宇宙船企業 (中)

モハーベでバート・ルータンがSpaceShipOneを飛ばしている時、Virgin Groupのリチャード・ブランソン卿もまた、同じ場所からその飛行を見ていた。ヒッピー・トレーダーと呼ばれた伝説的起業家ブランソン氏も55歳となったが、起業精神はますます盛んでSpaceShipOneの飛行の成功と共に本格的に宇宙事業に乗り出してきた。

「ティーンエイジャーの時から、宇宙はエキサイティングだと感じていたよ。私はそれ以来ずっとそれに驚嘆している。私たちはアフリカに素晴らしい望遠鏡を持っているんだ。そして、私の父は宇宙についての本を読むことに多くの時間を費やしいる。父の大好きな引用の一つは、地球上の砂よりもっと多くの星が宇宙には存在するというものなんだ。」

ブランソン卿のVirginは宇宙での最初の民間宇宙旅客機運営社となるべく1999年には既にVirgin Galacticという名前を登録していた。当時、ルータンは宇宙について考えていたが、誰も何を考えているのか知らなかった。ブランソン卿は有望な宇宙計画を捜しおり、モハーベにあるRotary Rocketに目をつけた。ブランソン卿は後日、ルータンにこう尋ねている。「なぜこのような全ての宇宙プロジェクトはモハーベから出てくるのかな?」ルータンの答えはこうだった。「他にする事がなにもないからさ。」

Virginはルータンが作っていた世界初の単独無着陸・無給油世界一周飛行を行うGlobal Flyerの後援者となった。2002年に、Virgin Galactic社長のウィル・ホワイトホーン氏と、Global Flyerのパイロット・アレックス・タイ氏がGlobal Flyerについて議論していた時、突然ルータンは彼らにSpaceShipOneを見せた。これはルータンの癖で、未来の計画についてはある次期までほとんど明かさず、突然ある日それらについて語りだす。
ホワイトホーン社長はびっくりした当時の印象についてこう語る。「それは私が見てきた中で、最もファンタジックなものだった。それは25世紀のBuck Rogersのようだ。まさに地球上でここにしかないものだった。」
しかしながら、ホワイトホーン社長はVirginがこの計画に関わるとは思っていなかった。けれど、ブランソン会長は決めていた。彼のフィナンシャルを担当する人は彼を「Dr Yes」と呼ぶ。宇宙飛行は彼にとってYesなのだ。ここからブランソン卿とルータンのかわったパートナーシップが始まった。

しかし、SpaceShipOneはポール・アレン氏の所有だった。アレン氏は1975年にビル・ゲイツ氏と共にマイクロソフトを設立した。今はもうマイクロソフトから去ったが、200億ドルもの資産を保持し昨年は世界第3位の富豪にランクされていた。
ルータンの計画を最初に支持したのはアレン氏だった。しかし、その目的はX PRIZEに勝利することであり、その目標を達成するとSpaceShipOneはスミソニアンに引退した。

ルータンは、地上から発射するロケットがあまり好きではない。発射直後の失敗が全てをだめにしてしまうリスクが非常に高い。それに、重い燃料を持ち上げなければならない。あらゆる検討の結果、やはり空中発射が理想的に思えた。そして一つだけ残った問題、それは再突入だった。NASAの古いカプセルやシャトルの方法では、重く、高価で危険だ。そして、再突入の角度におけるほんの少しのエラーですぐに船は蒸発する。ルータンはもっと良い方法を望んだ。そしてある日、彼はそれを見つけた。うそのような話しだが、ルータンは真夜中にそれを思いつき妻のトーニャを起こしたという伝説になっている。「Awww」ルータンは言う。「覚えていないよ。いつも朝早くに仕事をする。それは私にとって最もクリエイティブな時間なんだ。」

ルータンのとりわけ天才的なところを上げると、それは空気力学だ。彼は、表面、速度、気流の微妙なコンビネーションを理解することができる。再突入問題に対する彼の解答は、まさしくこの空力だった。彼は驚くエンジニア達に説明した。「我々がするべきことのすべでは "feather"だ。機体の大きさを、半分折り曲げる事によって表面積をコントロールする。」
全ての尾翼ヒンジの角度を70度まであげる。これで航空機をバドミントンの羽根のようになる。そうすれば再突入時に、1分未満ならば上昇する温度に機体は耐えることができる。50,000フィートから尾翼は伸ばされ、着陸のために滑空をする。これで、再突入時におけるパイロットエラーの可能性がなくなる。「いったんテールが "feathered"されれば、パイロットはランチを食べていても問題ない。」とルータンは言う。この方法は空気力学をすべて満たしている。計画していた高度に達する前にロケットに問題が起き壊れたとしても、それでも機体は問題なく着陸する事が可能である。

ルータンは風洞実験をしない。彼は自身の空力の才能と、SpaceShipOneのテストパイロット、マイク・メルビル氏とブライアン・ビニー氏の勇気を信頼する。その一番最初の飛行は、エンジンを点火せずに純粋なグライダーとして行った。ホワイトナイトが48,000フィートまで運び上げ、メルビル氏の乗ったSpaceShipOneを落とす。
SpaceShipOneに乗っていて恐ろしくないのか?という質問に対し、メルビル氏はこう答える。「そうだね。たしかにそれはリスクが大きい。しかし、私は危険を冒すのが好きなのだよ。」これがRight Stuffなのだろう。
メルビル氏は降下直後の数秒でこの飛行機の操縦を学ばなければならない。この飛行はひどいものであり、操縦は簡単ではなかった。それは尾翼が小さすぎたためで、すぐに改良が行われた。しかし、それでもこの卵型を飛ばすには芸術技が必要だ。メルビル氏は宇宙への飛行の時には操縦する事を切に願うが、彼の年齢は64歳であり時間は限られている。そのため日夜トレーニングに励み、健康に気を配る。「私の健康はパーフェクトだ。1ヵ月に400マイルは自転車に乗るし、月に一度100マイルのレースに参加しているよ。」



(つづく)


※写真はScaled Composites社のHPより

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