2005/06/03 (金)

不協和音が浮き彫りに−国際宇宙開発会議(ISDC)−

バージニア州アーリントンで実施された「国際宇宙開発会議(ISDC)」において、
スケールドコンポジット社のバート・ルータン氏は米航空宇宙局(NASA)を痛烈に批判
するスピーチを行なった。また、本会議では政府と民間や各勢力間の意見の不一致が
浮き彫りになっただけだった。

ルータン氏は「NASAは重大な欠陥を抱えるスペースシャトルや、立案段階から決して発展することがない机上の宇宙船計画などに、納税者の税金を浪費している。」「NASAは有人宇宙飛行事業から撤退し、立ち上がりつつある民間の宇宙飛行産業にこの分野を任せるべきだ」と主張し、自らのビジョンについて説明し、今後12年以内に数万人の乗客を有料の弾道飛行に送り出す事業計画を披露し、その後には地球周回や、さらに遠くへの宇宙旅行も控えているという。ルータン氏の究極の目標はシンプルで「自分が生きているうちに月に行きたい。」ということらしい。

この会議には、宇宙起業家やNASAの職員、航空宇宙業界の幹部たちが集まり、民間宇宙飛行の未来を熱く語り合ったのだが、ほとんどが大まかな枠組みの提示や、自説の主張に終始していた。
もともと本会議ではそれぞれに立場の大きく異なるものをまとめようとしたのだが、結局、各勢力間の意見の不一致が浮き彫りになっただけだった。政府と民間では大きな考えかたの相違があり、争点になったのは、特に訓練を受けていない一般市民が、宇宙という苛酷な環境で果たす役割があるのかという問題だった。
(一般市民が宇宙に行く必要があるか?ということらしい)

また、民間企業ではスペースシャトルやそれに代わる輸送機の開発について、政府のやり方について意義を唱えた。政府主導と民間主導では大きな根本的な考えの相違がある

政府の宇宙開発を担ってきた巨大航空宇宙企業であるロッキード社が表明している次世代スペースシャトルの開発計画については、聴衆から、同社の有人宇宙飛行計画について説明するよう求められたが、情報を隠すためか口を閉ざした。

一方、新興企業、米トランスフォーメーショナル・スペース(t/スペース)社は自社の次世代シャトル構想を披露し、話題をさらった。t/スペース社は、次世代スペースシャトルの入札への参加は断念したものの、4人乗りの『搭乗員輸送機』(CXV)で航空宇宙業界の巨大企業を出し抜きたいと考えている。NASAはこのCXVを使い、宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)やさらにその先の宇宙空間に送り届けることが可能になる。

CXVの開発には5億ドルが必要だが、t/スペース社では巨大企業のように予算の全額をNASAに要求するのでなく、開発費のごく一部を補助してもらい、その見返りとして技術的成果を提供するという方式を提案している。

t/スペース社の宇宙船とロッキード社など巨大企業の次世代シャトル計画の間には、さらに根本的な大きな違いがある。
t/スペース社は、このシャトルを使って、いわゆる宇宙旅行(運賃を払う旅客を宇宙に送り出す)構想を持っているのだ。同社では、NASAの要求を満たす宇宙船を提供した後に、人々に宇宙旅行を提供する計画だ。

宇宙への観光旅行は、宇宙起業家の多くが目指している目標だが、現時点での大きな課題には、「安全性」の問題がある。この問題の解決にはt/スペース社やスケールドコンポジッツやバージンギャラクティックなどは爆発の危険性が低い燃料を使うなど民間宇宙飛行に最も適した技術の採用を考えている。一方、イー
ロン・マスクの米スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)社のように、昔ながらの2段式ロケットを民間宇宙飛行に使おうとしている企業も複数ある。この場合、燃料に使われるのはケロシン(灯油)と液体酸素で、爆発の危険性もある。

そして、民間宇宙旅行において爆発事故を起こせば、米国政
府が宇宙旅行ビジネスそのものに待ったをかける恐れも十分にあることが懸念されている。

ISDCにおいて起業家のボブ・リチャーズ氏はISDCの最後を飾るプレゼンテーションで、宇宙旅行の現状を開演前のオーケストラが立てる不協和音にたとえて、調律が終われば、それまでの不協和音が消えて調和の取れた音楽に変わり、宇宙の様相は一変するだろうと述べた。

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